シマリスとストレスを考える
〜その3〜


■ オペラント条件づけとは?

学習の基礎的過程には、古典的条件づけのほかに、もう一つの形態があります。スキナーという著名な心理学者が行った実験が有名ですので、それを取り上げてみたいと思います。

どういう実験かと言うと、心理学でスキナー箱と呼ばれている入れ物の中に空腹の動物(例えばネズミ)を入れて学習過程を観察する実験です。スキナー箱の中にはレバー(スイッチ)とエサ受けがあります。そして、この中にネズミを入れて、何かのはずみでネズミがレバーを押したらエサ受けにエサが出てくる仕組みになっています。このとき、この偶然の積み重ねによって、ネズミはだんだん自発的にレバーを押すようになってくることがわかっています。このとき、レバーを押すという行動がエサ(強化子)によって「強化」されたと言います。

このような学習過程は「オペラント条件づけ(道具的条件づけ)」と呼ばれています。オペラント条件づけの反応の特徴は、外部の環境に対して自発的に働きかける形で現れる、ということです。

このオペラント条件づけですが、「強化」のされ方によって学習過程が異なっていることが知られていて、この「強化」のされ方は「強化スケジュール」と呼ばれています。強化スケジュールの基本形には何種類かありますが、ここではわかりやすく2種類の強化スケジュールを取り上げることにします。その1つを「定率強化スケジュール(FR)」と言い、もう1つを「変率強化スケジュール(VR)」と言います。

「定率強化スケジュール(FR)」というのは、一定回数の反応のあとに強化子が与えられる、と言うものです。例えば、ネズミが50回レバーを押したら1回エサがエサ受けに落ちてくるようなものです。

「変率強化スケジュール(VR)」というのは、強化子が与えられるタイミングがランダムであるものです。例えば、ネズミが平均して50回レバーを押したら1回エサがエサ受けに落ちてくるとします。このとき50回という回数は定率強化スケジュール(FR)と同じですが、変率強化スケジュール(VR)の場合は1回レバーを押したらエサが出てくることもあるし、100回レバーを押さないとエサが出てこないこともある、というものです。

この2つの場合、レバーをよく押すようになるのは「変率強化スケジュール(VR)」によって強化されたネズミのほうになります。エサはいつ出てくるかわからない、でもきっといつかは出てくる。そんな環境がネズミのレバー押し行動を増長させているわけです。ちなみにこの「変率強化スケジュール(VR)」ですが、ここでは取り上げなかったその他のスケジュールの場合と比べても、もっとも反応が高い結果が出ています。人間社会の場合、「変率強化スケジュール(VR)」の例としてよく「賭けごと」が挙げられます。

次に、条件づけの「消去」という実験をしてみます。つまり、レバーを押してももうエサは出てこないようにしたとき、ネズミくんが反応しなくなるまでにどれくらいの時間がかかるか?という実験です。

ここで得られる結論は、非常に興味深いものです。結論を言うと、「変率強化スケジュール(VR)」で条件づけられたネズミくんは、もうエサが出てこなくなったというのにいつまでもいつまでもレバーを押しつづけるのです。ネズミくんがもうエサは出てこないということをわかってレバーを押さなくなるまでの時間が一番長いのが「変率強化スケジュール(VR)」のケースになるわけです。そんなわけで、「賭けごと」は一度ハマルとなかなか抜けられない、と言われています。


■ オペラント条件づけとシマリス

オペラント条件づけという現象は、実は意外と身近な現象だったりします。例えば、お母さんと赤ちゃんの例を挙げてみることにします。赤ちゃんはよくわからないけど動いてみて何かを表現しているとします。お母さんは、赤ちゃんはいったい何が言いたいんだろう?と一生懸命考えます。そんなとき偶然にも赤ちゃんが「まんま」と言いました。お母さんは、あぁお腹が空いたのね、と思っておっぱいをあげることにします。おっぱいを飲んだ赤ちゃんは何だか気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立て始めます。赤ちゃんが偶然にも「まんま」と発声したことを、お母さんは今後もお腹が空いているんだと思いつづけることでしょう。すると赤ちゃんは、おっぱいが飲めるという強化子によって「まんま」と発声することを条件づけられることになります。このようにして、お母さんと赤ちゃんの間に1つ意思の疎通が誕生することになります。

それでは、このオペラント条件づけによってもたらされるかもしれない、シマリスのストレスについて考えてみたいと思います。ここでも、古典的条件づけのときと同じように、「エサ」と「ケージの外に出る」という2つを考えてみたいと思います。

オペラント条件づけが成立するには、シマリスが表現していることを飼い主が飼い主なりに解釈することが必要になります。例えば、反復横飛びをしているシマリスがいるとします。この反復横飛びは、ただ単に動いているだけかもしれないし、なんだか気がたって暴れているのかもしれないし、もしかして気分が良くて走り回っているだけかもしれない。そんなシマリスを見た飼い主が、いったいこの子は何が言いたいんだろう?と考えるとします。そして、あぁケージの外に出たいんだ!と思ってケージから出してあげたとします。シマリスには、仮に何か主張があったにしても、このときケージの外に出してくれなんて具体的なことは全く考えていませんでした。そんなシマリスは、おぉっラッキー!と思っておおはしゃぎ。これが何度か繰り返されると、シマリスは反復横飛びという行動がケージの外に出られるという強化子によって条件付けられることになるわけです。強化スケジュールは「変率強化スケジュール(VR)」があてはまると考えられます。

ただ、いつも反復横飛びをしていればいい、いうわけではなくて、例えば「飼い主がケージの前のソファーに座ってテレビを見ていて、ちらっとシマリスのほうを見たとき」に反復横飛びをすればケージの外に出してもらえる、というケースもあるかもしれません。つまり「飼い主がケージの前のソファーに座ってテレビを見ていて、ちらっとシマリスのほうを見たとき」じゃないときは、いくら反復横飛びをしても外には出られないわけです。こういう場合、「飼い主がケージの前のソファーに座ってテレビを見ていて、ちらっとシマリスのほうを見たとき」に反復横飛びをするようになるかもしれません。このように、前提になる条件(手がかり刺激)があったりなかったりすることで、反応があったりなかったりすることを、心理学では「弁別」と呼んでいます。

反復横飛びに限らず、その他の行動でもオペラント条件づけが成立すれば、ある程度のコミュニケーションが取れるようになることが考えられます。飼い主とシマリスの目が合った瞬間、じっとしていたシマリスがいきなりケージに飛びついてきて外に向かっておしっこをシャーシャーとしたとします。そんな場合、おしっこをするという行為がシマリスの頭の中で何かに条件付けられている可能性もあります。

例えば、シマリスが偶然そういう行動をとった時、その行動を見た飼い主が、なんだかこの子怒ってるみたい、と感じてご機嫌をとるために大好物のクルミを献上したとしますね。そのことが数回繰り返されて条件付けが成立した場合、シマリスはそれ以降、飼い主と目が合った瞬間ケージに飛びついて外に向かっておしっこをシャーシャーすることを通して、クルミをよこせぇぇー!と訴えてくることもあり得るわけです。

そして、もしこれが「変率強化スケジュール(VR)」で条件づけられた場合、それはなかなか消去されません。皆さんが飼われているシマリスも、何かの行動が条件付けられていて、飼い主に何かを主張しようとしていることがあることも考えられます。そんな目でシマリスを見ると、また面白いかもしれません。


■ オペラント条件づけとストレス

ところで、ここでも注意しておきたいことが考えられはしないでしょうか?というのは、シマリスが何か主張したいことがあるなら、飼い主がその期待に応えない場合にはやはり《欲求不満》という状態が待っていることになります。何らかの条件付けが成立してしまったことに気づいていない飼い主は、自分でも無意識のうちにシマリスにストレスを与えてしまうことになるのです。

「変率強化スケジュール(VR)」によって条件付けが成立してしまうと、シマリスはまるで人間が「賭けごと」にハマッた時のようにいつゲットできるか分からない報酬のことで頭がいっぱいになり、常に期待感に翻弄されてしまいます。さらに悪いことに、この場合、条件付けの消去に時間がかかることにもなるので、長い期間ストレス状態にさらされてしまいます。

前述しましたが、一般に、欲求不満は攻撃行動を引き起こします。つまり、欲求不満な状態になると、いわゆるアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されるわけです。簡単に言うと、恐怖を感じたときにはこのホルモンが分泌されて、その結果、闘争行動や逃走行動を急速に引き起こすことで知られています。そしてリスにとって欲求を満たしてくれない「悪い飼い主」は、当然攻撃の対象となります。

このようなストレスを回避するためにはどうしたらいいでしょうか?一つの方法として、シマリスの行動を人間の考え方で解釈しない、ということが考えられます。そうすれば、そもそも条件づけられることがないからです。ですが、少しはコミュニケーションが取れたほうが、お互いにとって幸せのような気がします。ストレスは全くないというのも体に悪いことで、適度のストレスは生きる活力につながっています。人間の場合、適度のストレスは例えばいわゆる老化の防止にも役立っているようです。年齢を経るとともに、細胞の再生能力や抗体の産成能力が衰え、そのため体の衰えとともにがんの発生率も高くなるのが知られています。ですが、適度なストレスを受けて適度な緊張状態を保つことができれば、細胞の再生能力や抗体の産成能力といったものを活性化させることが知られているようです。コミュニケーションを通して、飼い主とシマリスとの間に意味のある適度な緊張関係が保たれていることが健康状態を維持することにつながるかもしれません。

では、どういう方法があるでしょうか?なかなか難しいですね・・・。例えば、シマリスが何か主張しているように感じたときにはしばらく無視をする、というやり方をとるのはどうでしょうか?時間をおいてから、エサをあげるなり、ケージの外に出すなりしてあげるということです。シマリスが自分でとった行動と、その後に飼い主がしてくれことの関連性を薄くするわけです。

また、古典的条件づけとオペラント条件づけは、実際には相互に組み合わさっていると考えられています。そこで、古典的条件づけの箇所で述べたように、意識して何かの決まった合図をすることが考えられます。つまり、決まったオーバーな合図をしたあとに必ずエサをあげるなり、必ず外に出してあげるなりする、ということです。そのようにして条件付けられたシマリスは、安心して精神的ストレスの少ない暮らしをすることができるのではないでしょうか。

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