シマリスとストレスを考える
〜その2〜


■ 古典的条件づけとは?

「パヴロフのイヌ」というのはみなさんご存じだと思います。

イヌはメトロノームの音(中性刺激)を聞いても何とも思いません。イヌにとってはメトロノームの音は意味のない刺激なんですね。でも、イヌはエサ(無条件刺激、UCS)を見るとそれだけでよだれをたらしてしまいます(無条件反応、UCR)。

そこでパヴロフは、イヌにメトロノームの音を聞かせたあと、すぐそのイヌにエサをあげてみる実験をしました。その結果、イヌは意味のない刺激であるはずのメトロノームの音(条件刺激、CS)を聞いただけでよだれをたらすようになった(条件反応、CR)、というものです。

このような学習過程は「古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)」と呼ばれています。古典的条件づけの反応の特徴は、外部の環境に対して応答する形で現れる、ということです。


■ 古典的条件づけとシマリス

それでは、この古典的条件づけによってもたらされるかもしれない、シマリスのストレスについて考えてみたいと思います。まず、シマリスにとって意味のある刺激(無条件刺激、UCS)とは何か?ということですが、ほとんどの動物にとってプラスのベクトルが働くものを取り上げたいと思います。ここでは、「エサ」と「ケージの外に出る」という2つを考えます。

エサは毎日あげるものですが、エサをあげるときシマリスはエサをもらえることを事前に知っていることと思います。これは、エサをくれるときの人間の行動が条件づけされているためです。エサをあげるときには、飼い主がどこかでいつもと同じパターンの行動をとっているわけです。例えば冷蔵庫を開けるとか、袋をガサガサさせるとか。それが条件刺激(CS)になって、「エサが出てくる!」という条件反応(CR)が引き起こされるわけです。

また、ケージで飼われているシマリスを、時々ケージの外に出されることがあると思います。この場合もエサと同じで、外に出してくれるときの人間の行動が条件づけされているわけです。癖や習慣といった要因も加わって、シマリスをケージから出すときの飼い主の行動には共通性があることが考えられます。シマリスがそれを見逃すはずはなく、それが条件刺激(CS)になって、「外に出られる!」という条件反応(CR)が引き起こされるわけです。


■ 古典的条件づけとストレス

さて、ここでひとつ注意しておきたいことが考えられはしないでしょうか?というのは、エサをあげたり、ケージの外に出してあげたりするときには、シマリスがはっきりとわかるような合図をしてあげるほうがいいのではないか?ということです。

私たちはエサをあげたり、ケージの外に出してあげるときに、シマリスにわかるような行動を意識的にとっているわけではありません。私たちが無意識にとっている行動を見て、シマリスが勝手に、こういうときにはエサが出てくる、ケージの外に出られる、と思っているだけなわけです。

ですが、私たちはその無意識の行動を別の機会にもとっていないとは限らないわけです。つまりエサをあげないときにエサが出てくるはずの行動を飼い主がとっていたり、ケージの外に出してあげないときにケージの外に出られる行動を飼い主がとっているようなケースです。このようなケースで、もし条件反応(CR)が起こっていたとしたら、それはストレスになってあらわれることも考えられます。

条件反応(CR)が起こっている状態は要するに“期待している状態”なわけですが、仮にその期待という欲求が満たされないとしたらそのときには《欲求不満》という状態に陥ってしまいます。

一般に、欲求不満は攻撃行動を引き起こします。つまり、欲求不満な状態になると、いわゆるアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されるわけです。簡単に言うと、恐怖を感じたときにはこのホルモンが分泌されて、そしてその結果、闘争行動や逃走行動を急速に引き起こすことで知られています。

このようなストレスを避けるためにはどうしたらいいでしょうか?ここで考えているストレスは、飼い主の無意識の行動がいつしかシマリスにとって意味のある条件刺激(CS)になってしまっていることが引き金になっています。

ケージの外に出るという刺激を例にとるなら、具体的にはこんな感じになります。一昨日は何時に出られたから今日もその時間に期待して待っていたら今日は出してもらえなかった!昨日はあっちのドアから人が近づいてきたときに外にでられたから、今日もそのドアから人が近づいてくるたびに期待してるんだけど、全然外に出してくれない!!期待してるのにその期待が裏切られる!!!なんだかそんなことを言いたげなような気がするシマリスの姿を見たことはありませんか?

これを回避するための方法としては、エサをあげたり、ケージの外に出してあげたりするときに、意識して何かの決まった合図をすることが考えられます。それも、日常生活では無意識にとってしまうこともないような特殊な合図を。例えばタンバリンを持ってケージの前で踊るとか (^-^;; 、そんな感じの決まったオーバーな合図をしたあとに必ずエサをあげるなり、必ず外に出してあげるなりする、ということです。

そして、ケージの外に出したときには、ケージに戻そうとするときも同じだということです。私自身は人間の手でケージに戻すことはありませんが、飼い主さんが何らかの手段を使って人為的にケージに戻している場合には、シマリスはいったいいつケージに戻されてしまうのか、ケージに戻される気配を感じるたびにビクビクしてしまうことが考えられます。このような場合、飼い主は自分をケージに閉じ込める《敵》以外の何者でもなくなってしまいます。

シマリスには「いい飼い主」と「悪い飼い主」が同一人物だということがおそらく認知できません。これは人間でも幼年期に見られる学習初期の現象で、心理学では「妄想−分裂的態勢」と言われています。よくあげられる例は、乳幼児は母乳の出がいい「いいおっぱい」と母乳の出が悪い「悪いおっぱい」が同一の母親のおっぱいだということが認知できないということです。時に乳幼児にとって「悪いおっぱい」は欲求不満を呼び起こし、そして攻撃すべき対象になってしまいます。

このようにして、シマリスも「悪い飼い主」に対して闘争行動を起こすことがあると考えられます。シマリスがよく馴れている飼い主ほどよく噛まれると言われますが、これも検討違いな経験則ではありません。よく馴れているということは、それだけシマリスと接している時間が長いということですから、当然、時にシマリスにとって「悪い飼い主」になってしまうリスクも高いわけです。また、闘争行動と同じ意味を持つ行動として逃走行動があるのですが、慣れているなら挑んでくる場合であっても、馴れていない場合には攻撃できずにそのかわりに逃走するという行動に出ることも考えられるわけです。ただまぁ言えることは、シマリスが攻撃してきたから仲良くしてるんだ、と思うのは検討違いで、闘争行動はあくまでも闘争行動であるということですね。

そこで、ケージに戻す前にも、できるだけ合図をしてからケージに戻すアクションを起こすことをオススメします。もちろん、その合図をしたとたんに、シマリスにとってその人は《敵》になりますが・・・(^-^;; ただ、また再びタンバリンを持ってケージの前で踊る変な人が来れば必ずケージの外に出して貰える、ということがシマリスにわかっていれば、それほど嫌がりはしないかも (^-^???

もっとも、ケージに戻す一番いい方法は、シマリスが自分でケージに戻っている瞬間にさっさと扉を閉めてしまうことです。ただ、1〜2時間に1回くらいなので、時間に余裕がない方はそうはいかないかもしれません。そんな場合は、やっぱり、合図をしてからケージに戻すアクションを起こすのが無難でしょう。ただ、古典的条件づけとは関係のない話になりますが、ケージに戻すために追いかけ回したりするのは絶対に厳禁です。「飼い主の都合でケージから出し入れをするのは、個体によっては大きなストレスとなることがある」(大野瑞枝さん著『リスクラブ』誠文堂新光社)というご意見もあるように、ストレスを感じさせない戻し方の技術が必要になります。シマリスにストレスを与えるような戻し方をしないとケージに戻せないなら、ケージの外に出さない「完全ケージ飼い」のほうが好ましいのではないかと考えられます。

ちなみに、これはまったくの余談なんですが、イワシなどでとっても有名になった DHA、あの DHA って鬱病とか分裂病を改善する効果があるんですよね。その上、富山医科薬科大・和漢薬研究所臨床利用部門の浜崎智仁教授を中心としたグループの研究によると、DHAを十分に摂れば精神を安定させてストレスによる敵意性の上昇を抑える作用があることも明らかになったみたいです(笠本,1999)。シマリスって DHA を摂っても平気かしら?もしかして体に悪い?でも、DHA でシマリスの闘争行動が和らぐならあげてみたい気もしたりして・・・ (^-^;;

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