『遠い日の約束』  「ねぇ、蓮!!大きくなったらお嫁さんにしてくれる???」  「・・・。」  「ねぇってば!!」  「・・・・。」  「ねぇ!!!!!」  「あぁもう五月蠅い!!解った、してやる!」  の家は代々道家に使えてきた信頼の厚い家臣である。  跡取り息子である蓮とは同い年で一緒に育てられてきた。  兄妹のように。  だが、いつの頃からか“身分の違い”というものがつきまとってきた。  誰に教えられたわけでも、誰に言われるでもないのに。  いつの間にか呼び捨てだったものに様を付けるようになり、 敬語を使うようになり。  “身分の違い”と共に兄妹以上の感情も生まれてきた。  あの頃から。    一緒に遊ばなくなってから、蓮は変わった。  モノを壊すことしかできなくなってしまった。  一緒にいられなくなってから蓮はどんな世界を、 何を見てきたのだろう? は何も出来ない苦しみに夜に何度も枕を涙で濡らした。  父親の呪縛、道家の呪縛。  それのなに一つ解いてあげられなかった。  何年も経ち、いよいよ500年に一度の シャーマンファイト予選が始まった。  シャーマンキングになるための第一歩を 踏み出すために蓮は日本へと旅立った。  「行ってらっしゃいませ。」  蓮は 「あぁ。」 と一言だけ。  久しぶりに交わした会話はこれっきり。  会話といえるかどうかすら微妙である。  そんな蓮は遠い昔に交わした約束は覚えているのだろうか?  シャーマンキングになったら・・・・。  あんな幼い頃の口約束を信じているなんていう 自分が莫迦なだけなのだろうか?    それからしばらくして予選突破の連絡とともに蓮が帰って来た。  友人たちと共に。  道円との死闘。  はただ話しに聞くだけだったがかなり大変なものだったらしい。  蓮は自ら己の呪縛を解き放ったのだ。  戦いの後の晩餐の後、は館の庭園で偶然に蓮と再会した。  「・・・。久しぶりだな。」  昔の面影が残っていた。  というより、一時期の蓮から、昔の蓮に戻ったかのようだ。  「お帰りなさいませ・・・。蓮様。」  あっちから声を掛けてくれた上に、 久しぶりだということでは戸惑いは隠せない。  それきり会話は途切れてしまった。  二人ともただ空に煌々と照る月を見つめるだけ。  しかし、お互いその場を離れようとはしなかった。  蓮はどう思っているかは解らないが は二人で居られるだけで十分だった。  所詮は身分違いの思いなのだから。  「今日、許嫁をという話がでた・・・。」  いきなり蓮の口から出た言葉。  「え・・・?あ・・・、それはおめでとうございます。」 は下を向いたまま呟いた。  これで良いのだと自分に言い聞かせながら。  「そうか。お前は覚えていなかったか。・・・、それだけだ。」  蓮は月から目を離すことなく言った。  言い終わると、そのまま館の中に帰っていこうとした。  覚えていない?  あの日の約束のこと?  蓮は覚えてたの?  「忘れるわけないじゃない!!」  蓮の背中に向かって呼び止める言葉の変わりに叫ぶ。  その声に驚いたように蓮は振り向く。  「あ・・・・、つい。」  自分の言葉遣いに気がつき口を噤む。  「私は・・・幼い頃からずっと蓮様をお慕いして参りました。  ただ身分違いの思いと諦めておりました・・・。  それに許嫁をというお話まで出ては、 私はどうすることもできません・・・!」  蓮の顔はの方からは月の光の逆光であまりよく見えなかった。  それに顔を合わせるのが恥ずかしくて蓮の顔が見られなかった。  「許嫁の件は断った。道家の跡を継ぐ者として、 自分の伴侶は自分で決めると言ってきた。」  「でも・・・。」  「当主になるのは俺だ。その俺に文句をつける奴などいないはずだ。  俺がお前を妻に迎えようともな。」  はその言葉を聞き顔を上げた。  その時の蓮の顔はなんだか赤みを帯びていたようで。  「あの・・・それって・・・。」  「お前が昔からしつこく言うからだなぁ、俺は仕方なく・・・!!!」  狼狽える蓮。  そんな蓮を見ては微笑んだ。    次の日にもう蓮は日本に帰ってしまった。  その時の別れに蓮が言った。  「次に帰って来るときは俺はシャーマンキングになっている。  それまで、待っていろ。」  目を合わせることはなかったが気持ちはちゃんと伝わった。  「はい。行ってらっしゃいませ!」  は笑顔で送り出す。  シャーマンファイトの本戦で蓮の身に何が起こるのか などはこのときの二人には知る由もなかった。  NEXT
   執筆中のBGM「流露」“歌の万辞苑”より(笑)